愛を教えて
『主人に何かあったんですか? どうぞ、お入りになってください』


なんの警戒もせずに万里子はジェームズを通した。

それもそのはず、一度ライカーを通した件で卓巳は支配人に厳重抗議をしている。そのチェックを抜けてここまで来たということは、ジェームズの言葉は事実なのだろう。


(会社にとって、何か悪いことが起こったの?)


万里子の不安は的中する。

しかし、それは全く予想外の言葉だった。


『非常に申し上げ難いのですが。社長のご命令であなたを、サー・スティーブン・ライカーの元にお連れするように、とのことでございます』


万里子の中で時間が止まった。

耳にした言葉が自分の翻訳ミスかと思い、愛想笑いまで浮かべてしまう。


『あ……いえ、ごめんなさい。よく聞こえなくて……できればもう一度』

『あらゆる手段を取りましたが、このままではフジワラ・ロンドン本社は閉鎖に追い込まれます。東京本社の蒙る打撃も少なくない。社長は個人的な感情より、会社の存続を優先されました』


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