愛を教えて
同時に彼女も何ごとか察したらしい。


「藤原? ふふーん、そういうこと。わがイトコ殿の新しい女ってことね。まったく! 何度言ったらわかるのかしら。ここは私も使ってるから女は連れ込まないでって言ってるのに。あなた知ってる? あの男が何人の女を弄んだか」


思わせぶりな、そして予想外の言葉に万里子は息を飲んだ。



彼女の名前は藤原静香《ふじわらしずか》という。

歴史ある私立大学を卒業後、英国留学を経て花嫁修業中の身だ。むろん、それは建前で、彼女は大勢の男性と深くて軽い付き合いを楽しんでいる。


しかし、容姿、学歴、肩書きと、どれをとっても従兄の卓巳に勝る男性はいない。

イトコ同士なら結婚も可能だと、卓巳をしつこく狙っていた。



静香は煙草を咥えると、カチカチと数回ライターを動かす。なかなか火が点かず、四回目にはライターごと煙草をゴミ箱に叩き込んだ。

かなり気の短い女性らしい。


「あの、イトコの方ですか? はじめまして、私は」


静香の言葉はとても信じがたい。

だがそれを尋ねる以前に、初対面なのだから、挨拶が必要ではないだろうか。

しかし、静香は違った。



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