愛を教えて
彼はこんなに早くばれると思っていなかった。もしばれても、卓巳は真っ先に万里子を探すだろう。その間に海外に逃げればいい。そう考えていた。
『待って……ください。私は三十年会社に仕えて来た。その退職金のようなもので……』
『ここ三年で約五十万ポンドか。収賄の金を合わせればもっとだな。無断で着服した会社の金は退職金とは言わない。それは日本でも英国でも同じことだ。君は罪を犯した。だが、君を救える人間もいる。それが誰かはわかるな?』
卓巳の言葉にジェームズの顔に生気が戻った。
『わ、私を、見逃してくれるのか?』
『ライカーの居場所を言え。君がヒースロー空港と間違えて妻を送り届けた場所だ』
卓巳は敬称も飛ばしてライカーを呼び捨てにした。
英国で貴族階級の人間を相手に取引する場合、許されないことだ。激昂する卓巳を見て、ジェームズの脳裏に打算が働いた。
なんと最悪なことに、彼は万里子を取引材料にすることを考えつく。
『ええ、もちろんお話します。そうですね――すぐに口座の凍結を解除して、横領の告訴を取り下げていただけるのなら』
『君は、私に取引を持ちかけているのか?』
『こっちも人生が懸かっているもんでね。さあ社長、携帯ですぐに命令してください。急がないと、奥様はサーのものになりますよ。彼の総資産は社長以上だ。それに、あっちのほうも素晴らしいとか。うかうかしてたら、奥様のほうから帰りたくないと言われかねない』
『待って……ください。私は三十年会社に仕えて来た。その退職金のようなもので……』
『ここ三年で約五十万ポンドか。収賄の金を合わせればもっとだな。無断で着服した会社の金は退職金とは言わない。それは日本でも英国でも同じことだ。君は罪を犯した。だが、君を救える人間もいる。それが誰かはわかるな?』
卓巳の言葉にジェームズの顔に生気が戻った。
『わ、私を、見逃してくれるのか?』
『ライカーの居場所を言え。君がヒースロー空港と間違えて妻を送り届けた場所だ』
卓巳は敬称も飛ばしてライカーを呼び捨てにした。
英国で貴族階級の人間を相手に取引する場合、許されないことだ。激昂する卓巳を見て、ジェームズの脳裏に打算が働いた。
なんと最悪なことに、彼は万里子を取引材料にすることを考えつく。
『ええ、もちろんお話します。そうですね――すぐに口座の凍結を解除して、横領の告訴を取り下げていただけるのなら』
『君は、私に取引を持ちかけているのか?』
『こっちも人生が懸かっているもんでね。さあ社長、携帯ですぐに命令してください。急がないと、奥様はサーのものになりますよ。彼の総資産は社長以上だ。それに、あっちのほうも素晴らしいとか。うかうかしてたら、奥様のほうから帰りたくないと言われかねない』