愛を教えて

(3)愛の値段

卓巳がジェームズの犯罪を知ったころ、万里子はライカーの元にいた。


『ようこそ、マリコ。ここは私のお気に入りだが、君と暮らすには狭い。ロンドン郊外に新しい家を建てよう。私の恋人になった君に最初のプレゼントだ』


万里子が連れて来られたのは、なんとリッツ・ロンドンから一キロも離れてはいない場所。ピカデリー通りに面し、ロンドンきっての高級住宅地メイフェアにあるホテルだ。オーナーはライカー本人だという。


最上階のオーナーズ・スイートはシッティングルームも広く、さっきまで万里子がいた部屋よりひと回りほど大きい。ホテルの外観もアール・デコ調の建築だったが、スイートの内装や家具もそれに揃えられていた。

浮かれた口調で話すライカーに万里子は冷ややかな視線を向ける。


『その前に。私は卓巳さんに言われてここに来ました。それは……私があなたの愛人になれば、卓巳さんは何も失わずに済むということでしょうか?』


視線と同じく、万里子の言葉も零下並の冷たさだ。

ライカーは驚きを露わにして、少し大袈裟におどけて見せた。


『おお、マリコ! どうしたんだい? 愛人なんて言葉は君にふさわしくない。私たちは愛を語り合う、恋人同士になるんだ』

『綺麗事はやめてください。私は夫のために来ました。契約が成立しなければ、愛人にはなりません』


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