愛を教えて
一切の妥協は受け入れない。そんな万里子の応対に、ライカーは脅しをかけて来た。


『マリコ……君は私との関係にもう少し積極的になるべきだ。そうでなければ、卓巳の決断は無駄になるだろう。ドアに鍵はかかっていない。出て行くのは自由だよ』

『積極的? ベッドルームはどちらですか? 服を脱いであなたを待てばいいんでしょうか? サー、何億ポンドを積んでも愛や尊敬は買えません。ですが、軽蔑や同情を買うのに大金は必要ないことをご存じでしょうか?』


それは痛烈な皮肉だ。さすがのライカーも気色ばんで万里子に背を向ける。

だが次の瞬間、ライカーは開き直ったのか両手を高く上げた。


『ああ、わかった。君には敵わない。フジワラとは最初の条件で正式契約する。ちょっと待ちたまえ……』


ライカーは固定電話の内線ボタンを押し、秘書のような男性を呼びつけた。


『これを、シティのフジワラ・ロンドン本社ビルに届けてくれ』


万里子の目の前で、正式契約書並びに国の認可書にライカーは署名捺印した。それを封筒に入れ、卓巳の元に送り届けるよう命令する。


(よかった……これで卓巳さんは助かるのね)


万里子のホッとした表情に、ライカーも気を取り直したようだ。


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