愛を教えて
これほどまでに、ひとりの女性にのめり込むことになるとは……ライカー自身も考えてはいなかった。

どんな女性も形ばかりの抵抗を見せ、最終的には望むものをライカーの手から受け取るのだ。

だが、万里子は違う。

だからこそ、卓巳から奪うことに至上の価値がある。


『マリコ、君をここによこしたのはタクミだろう? 彼は会社と君を天秤にかけ、君を捨てたんだ。タクミは君が愛を捧げるのにふさわしい男ではなかった。そうは思わないかい?』


うなだれる万里子の身体がピクリと動いた。

卓巳の裏切りを知り、傷ついた万里子に手を差し伸べる。そんな思惑でライカーは万里子の肩に手を添えた。


『悲しいのは今だけだよ。女の喜びも幸せも、すべて私が教えよう。私が君を世界一幸せな女性にしよう』


ライカーの指先が万里子の髪に触れた。彼はその柔らかさにドキッとする。日本女性の髪は黒くて硬いと思い込んでいた。だが、万里子の髪は絹糸のように滑らかで繊細だ。

リッチモンドの夜、ライカーは万里子を『アフロディーテに愛されている』と口にした。だが、彼はその言葉の誤りに気づいた。


(マリコは女神そのものだ)


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