愛を教えて
首筋のラインに触れただけで、これまでどんな女性にも覚えたことのない胸の高鳴りを感じる。

そして、ライカーの指は万里子の優美なラインを描く顎に辿り着き、彼は口づけようと、人差し指にそうっと力を加え押し上げた。

万里子の唇がかすかに動き、搾り出されるような声にライカーは耳を傾ける。


「たすけて……たくみさん……たすけて」


ライカーに日本語はわからない。万里子の呟きに彼が聞き取れたのは、卓巳の名前だけだった。


『タクミ? 君はタクミが助けに来ると思っているんだね? 可哀相に』


万里子の頬に一筋の涙が伝い、彼女はふるふると首を振った。その涙を、ライカーはもう片方の手でそっと拭う。


『私は君の新しい希望になれる。タクミは君を捨てた愚か者だ。さあ、自ら夫の権利を売り渡した男のことなど、綺麗に忘れるんだ』

 
言い終えると、ライカーは万里子の桜色の唇に、自分の唇を重ねる。


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