愛を教えて
ネイサン・B・フォークナーがライカーの母親と知り合ったのは三度目の離婚のあとだった。

母はネイサンがフランスに持つ邸の使用人。最初は優しかったが、母が英国人であることがわかった途端、避け始めたという。だがそのとき、すでに彼女のお腹にはライカーが宿っていた。

ネイサンは子供の親権が欲しくて結婚した。ふたりの結婚生活は母が亡くなるまで続いた。だが、母が幸福であったとは、とても思えない。


ネイサンは自分の行状は棚に上げ、息子には厳しかった。『跡継ぎはお前しかいない』そう言ってライカーのすべてをコントロールしようとする。


彼はそんな父親に反発し、わざと英国貴族に婿入りしたのだ。


ライカーの妻アマンダは、伯爵家のひとり娘にあるまじき放蕩ぶりで有名な女性だ。だが伯爵は、五十歳を過ぎてから産まれたひとり娘を溺愛していた。

ライカーがこの英国で貴族の後ろ盾とスポンサーを探していたとき、彼女は早急に夫を必要としていた。

伯爵は、決して離婚はしないこと、そして、アマンダが産む子供の父親となり、その子に爵位を継承すること。それを条件にライカーを婿に迎える。


ライカーの心の奥底には、深く眠らせた愛に対する憧憬があった。

それは卓巳や太一郎が万里子を求めるものと同じ。ライカーも、彼女の春の陽射しに似た暖かさに、魅せられてしまったひとりだ。


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