愛を教えて
彼は気を取り直し、万里子の手を引きソファに座らせる。


『マリコ、キスで君の不安を取り除けなかったのは残念だ。ではこうしよう。君の不安を私に話して欲しい。私はできる限りの努力をしよう』

『……不安など、ありません。もう、覚悟はできています』

『それは違う。“愛し合う”ことに覚悟など必要ない』

『私が愛しているのは、卓巳さんだけです』

『タクミは君の愛を受ける権利を放棄した。そしてそれは、今、私の手の中にある。もちろん、無条件に行使できるとは思っていない。君の愛を受けるために、私は努力するつもりだ』


万里子はライカーの言葉を聞き、うつむいていた顔を上げた。

涙に濡れた瞳は瞬きもせず、ライカーを凝視している。ライカーには、万里子が何にそれほど驚いているのかわからない。


『権利とはなんですか? 私の卓巳さんに対する思いは、私の胸の中にあります。それは卓巳さんのものではないし、ましてやサー、あなたの手には入りません』
 

それは痛烈なひと言だった。動けないライカーに万里子は更に言葉を続ける。


『サー・スティーブン。愛は土地とは違うのよ。譲渡はできないし、“行使する権利”でもないわ!』


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