愛を教えて
ライカーはやり場のない苛立ちを覚える。


万里子が欲しい。

あの卓巳に向ける笑顔を、ライカーに向けて欲しかった。もし、万里子が愛情に満ちた瞳でライカーを見つめ、『他には何もいらないから妻にして欲しい』そう望んでくれたなら……。

決して手放すことのできなかった爵位すら、捨てても構わないと思えるかもしれない。


万里子は母を思い出させる。

滅多に訪れない父を待ちながら、フランスの邸で母と暮らした幼い日々。『いいのよ。私はネイサンを愛しているから』そう話した母が哀れでならない。

その愛に応えない父を憎み、その愛に殉じた母を愚かだと思った。

頑なな愛は愚かだ。万里子の卓巳に対する愛情は愚かの極みだ。


その愚かな愛情を与えられたいと願う、相反する思いにライカーは自分自身を持て余し始める。
 

『わかった。いいだろう。なら、君の言うとおり、その覚悟とやらを見せてもらおう』


瞬時に、万里子は怯えた瞳でライカーを見上げた。彼はそれを無視すると、万里子を抱き上げ、寝室へと向かった。


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