愛を教えて
そのとき、初めてベッドの上で万里子が口を開いた。


『サー、許すも何も、この身体は“もの”です。“もの”に心など宿りません。どうぞ、お好きになさってください』


万里子に漆黒の視線を向けられ、ライカーはたじろいだ。

その目は侮蔑と憎悪、そして絶望を宿している。もし彼女に触れる男が卓巳であれば、彼女はどんなまなざしを向けるのだろう。それを思うだけでライカーの胸に焼け付くような痛みが走る。

夫に捨てられても売られても、それでも夫を思う万里子が憎らしい。卓巳が嫉ましく、悔しくて堪らない!


『マリコ、君は私に、そんなふうに投げ出された身体を抱けというのか?』

『何を今更。あなたの好きなようになさったら、どうぞ解放してください。夫の元には戻れませんが、わたしには愛する父がいます。父の元に……帰して……ください。どうか日本に……日本に帰りたい」


万里子はしだいに日本語となり、涙がこめかみを伝った。


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