愛を教えて

(4)突撃

卓巳がホテルの玄関口に降り立ったのは、ちょうどそのころだった。

馬蹄型をした建物の中央部分、メイフェア側に正面玄関がある。ドアマンに車のキーを預け、慌てて追いかけてくるジェイクを置き去りにして、卓巳は駆け足でロビーを横切った。

このホテルのオーナー専用スイートには直通エレベーターがある。それを知っていた卓巳は、全速力で直通エレベーターに向かった。


(まさか、こんな近くとは……ふざけやがって!)
 

アメリカと違い、ロンドンでは警官すら拳銃を所持していない。ましてや五つ星のホテル。普段なら、騒動を起こす人間など皆無に等しかった。

警備員は驚いてひたすら卓巳を制止しようとする。

だが、どこか緊迫感が足りない。そして、警備員が卓巳の肩を掴んだ瞬間――卓巳は問答無用で叩きのめしていた。

後方で上がる悲鳴を無視し、卓巳はエレベーターに乗り込んだ。

悲鳴の中には、ジェイクがボスを引き止める声も、そして、見覚えのある支配人が卓巳の名前を呼ぶ声もあった。

通常であれば、他の……正当な手段を選ぶだろう。だが、卓巳の理性は我慢の限界を超えていた。警察に通報されることも覚悟の上で、卓巳は強行突破を選ぶ。

エレベーターは最上階に到着し、扉が開いた。予想外にも押し寄せる従業員や警備員はいない。

卓巳は深呼吸を繰り返しながら、薄いグリーンの絨毯が敷かれたフロアを、正面のドアに向かって大股で歩いた。走りたくなる気持ちを抑え、頭の中を整理しようとする。

そして、扉の前に立った。



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