愛を教えて
直後、卓巳はいきなりドアを叩き始める。


『万里子! いるんだろう、万里子! 僕だ、返事をしてくれ!』


ようやく後方から走り寄る人の気配を感じた。だが、卓巳はまるで気にせず、怒鳴り続ける。


『ライカー! 貴様、よくもやってくれたな。万里子を返せ! ドアを開けないならぶち破るだけだ!』


叫ぶなり、卓巳は扉の横に置かれた花台から花瓶を払い除けた。派手な音を立て、白いガラス製の花瓶が割れる。トルコキキョウの柔らかい花びらが宙に舞った。


『……ガ、ガレが……エミール・ガレが』


卓巳の背後からそんな声が上がる。だが、卓巳にとっては大した問題ではない。


これが一般人なら、早々に取り押さえられるのかもしれない。だが支配人はこの狼藉者が、日本の企業で最初に名前が挙がる藤原グループの社長であることを知っていた。

支配人はライカー社とフジワラの間で問題が起きていることを聞き、できれば、話し合いで解決して欲しいと願った。どんな理由であれ、ホテルに警察を呼ぶことは不祥事に他ならない。


『ミスター・フジワラ……どうぞ落ちつかれてください。あなたはとんでもない誤解に基づき、違法な行為をされておいでです。どうか落ちつかれて、お部屋を用意しますので……』

 
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