愛を教えて
ライカーの答えは予想どおりだ。

ジェームズは、ジェイクの調査が自分まで及んでいることを知り、口座から大金を動かせなかった。そんなことをすれば、今から逃げます、と言っているようなものだ。

不審な動きをしないように、ライカーから逃走資金として現金を受け取った。

ライカーは『万里子を連れて来い』とは間違っても言わない。『万里子が手に入るのなら、金はいくらかかっても構わない』そんな独り言を、ジェームズが真に受けた。

ライカーの念の入った言い訳に、卓巳は唇を噛み締める以外にない。



『……妻を……返してくれ。頼む』
 

卓巳はライカーに頭を下げた。

ライカーは満足そうに笑うのかと思いきや、彼はテーブルに置かれたワインと同じようなルビー色に頬を染める。

それは、頭を下げた卓巳より、怒りや屈辱を味わったかのような表情だ。


直後、何事か思いついたのだろう。意地悪げな笑みを浮かべ、ライカーは立ち上がった。


『では、今の彼女の姿を見てもらおう。それでも、連れて帰ると言うかな?』


ライカーは大股で部屋を横切り、寝室のドアを開けた。


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