愛を教えて
(やっぱり……私は……)


万里子はバスローブの前をギュッと握った。


「待って……サー、お願いします」

『マリコ、残念だが、私には日本語はさっぱりわからない』


言われて初めて、万里子は自分が日本語を口走っていたことに気がついた。だが、この状況で英語など思い浮かばない。何度も口を開くが言葉にならず、しだいに息苦しくなる。

万里子は自分を落ちつかせようと、バスローブ越しに身体を抱き締めた。そして、必死になって息を吸おうとする。だが、息苦しさは増すばかりだ。


「卓巳さん……卓巳さん……」


ようやく零れ出た声も、卓巳の名を呼ぶことしかできない。


そんな万里子の腕をライカーは乱暴に掴むと、強引に引っ張った。万里子は恐怖のあまり、悲鳴すら上げることができない。恐る恐る見上げたライカーのグレーの瞳からは、そこはかとない狂気を感じる。


『君たちの愛は私を傷つける。君も……傷つけばいい』


言葉を失った万里子に、ライカーは抑揚のない声で言った。そして、彼は万里子をシッティングルームに引き摺り出した。


< 740 / 927 >

この作品をシェア

pagetop