愛を教えて
卓巳のゼロパーセントに「足せばいい」と答えたのは万里子だ。卓巳は繊細だが、一度決めたら目標を達成するまで諦めない人である。


万里子はイエスの代わりに卓巳にキスで答えた。


「卓巳さんの赤ちゃんが欲しい。あの子の分も愛して上げたい」

「万里子、いつか話そうと思っていた。――女の子だったんだね」


卓巳に胸に顔を伏せ、万里子はうなずく。


「見ないほうがいいと言われたけれど……取り出された子供を見ました。手も、足もちゃんとできてて――。名前をつけたとき、本当は怖かった。戸籍に載るんじゃないか……父に知られるって。酷い母親でしょう? だから、母親になる資格がないんだと思って……」

「当たり前の感情だ。本当に酷い母親は、子供のためには泣かない」


卓巳の言葉に、万里子は安堵した。

失った子供のために泣くことは偽善ではないのだ、と。


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