愛を教えて
「それは……」

「ないって言えよっ!」


答えない宗を睨みつけ、太一郎はガンと机を殴った。


「畜生! こっちは七五三以来のスーツを着て来たってのに」

「いや、馬子にも衣装ですよ」

「雪音と同じこと言ってんじゃねぇ!」


今日の太一郎は濃紺のオーダーメードのスーツを着ていた。無精ひげも綺麗に剃り、このまま就職の面接にでも行けそうな格好だ。丸刈り頭も、太一郎の体格なら体育会系だと思ってもらえるだろう。

だが、これから彼が向かうのは面接ではない。

藤原グループの臨時取締役会だった。


< 791 / 927 >

この作品をシェア

pagetop