愛を教えて
「遅く……なりました」


太一郎が第一会議室と書かれたドアを押し開けたとき、一斉に視線が注がれた。

様々な思惑のこもった目に、太一郎は一瞬怯む。そのまま謝って、出て行こうかとも考えた。


会議室は無機的な冷ややかさを持った広い空間だった。

ダークブラウンの大きな重役用の会議机が中央に置かれ、周囲に黒い革張りの椅子が配置されている。宗を除いて、ざっと二十人はいるだろうか。


「よろしいのよ、太一郎さん。次期社長のあなたを待つのは当然のことです」


取締役会に席を持ち、役員報酬を得ながらも、尚子が会議に出席したのは初めてのこと。

尚子の恐ろしいほどの笑顔に、太一郎は身が竦んだ。

この笑顔が数分後にはどう変わるだろう。


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