愛を教えて
太一郎は生唾を飲み込み、何度か口を開きかけ、やがて思い切ったように言った。


「やっぱ俺に、卓巳みたいに話すのは無理だよ。だから、悪いけどこんな感じで聞いてくれ。俺は“藤原”には入りません。卓巳は本当に凄い奴で、会長から従弟として協力してやってくれと言われたけど、今の俺には無理です。だから、どうかお願いします。奴がライカー社との契約を済ませて戻って来たとき、辞意表明の件はなかったことにしてやってください。――お願いします!」


太一郎は一歩下がると、机に額がつくほど頭を下げた。

ざわつく会議室内に、椅子の倒れる音が響き渡る。尚子だった。

彼女は憤怒の形相で立ち上がっている。そして、怒鳴ろうと口を開いたとき、妻を制して敦が口を開いた。


「今回の一件、家内がお騒がせして本当に申し訳ない。先代社長に、私は大変お世話になりました。おそらく、そういった方々も多いと思われます。ですが、今はもう卓巳くんの時代です。倅はご覧のとおり、まだまだ口の利き方も知りません。この騒動の責任を取るという形で……私と家内は取締役会から退きたいと思います。どうぞ、ご承認ください」


敦のひと言は拍手により承認され、会議は予想外の終幕を迎えた。


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