愛を教えて
窓の外はすでに真っ暗になっていた。

太一郎は会議の発言について色々な書類にサインをさせられた。ふと気づくと、時計は九時を回っている。


「ご立派でしたよ。太一郎様」

「……高ぇスーツが無駄になったな」


宗は微笑み、一枚の紙を差し出す。


「苗字は敦様の旧姓、伊勢崎を使いました。自治体から認可を受けた会社ですが……楽な仕事ではありませんよ」

「いいんだよ。ムショに入ったつもりで働くんだからさ」


何もかもなくした割に、太一郎の表情は晴れやかだ。

彼は藤原家を出て、環境整備やビルメンテナンス、廃棄物の収集運搬を行う業者で働くことになった。

宗の紹介で、父の敦も了解している。


「ま、悪いことをしたら便所掃除と相場は決まってますから。ちょうどいいですね」

「お前、言いたい放題の奴だな」

「では……いつか、ここにお戻りになることを願って」


そう言って差し出した宗の手を太一郎が掴んだ瞬間――


「宗さん! ロンドンから、社長からお電話です!!」


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