愛を教えて
確かに、と卓巳も思わず納得してしまう。


「契約は完了だ。フォークナーとの共同開発は計画どおり進める。準備チームはそのまま開発チームに移行。ロンドン時間で本日夕刻に共同記者会見が行われる予定だ。私も出席する。――詳細は戻ってからだな」

「……正式契約おめでとうございます。お疲れのところ申し訳ありませんが、本日、臨時取締役会が行われました。社長の帰国を待つことになり、明後日に再度召集を……」

「その件は延期してくれ」


一瞬、宗の声が詰まった。だが、予想の範囲内だったようだ。


「延期ですか。どれくらいでしょう?」

「一週間」

「無理です! 仕事がどれだけ溜まっていると思ってるんですか?」

「仕事? 取締役会は私を解任するんじゃないのか? 後任者が好きにやるだろう」


いささか投げやりな卓巳の返事に、その真意を測りかね、宗も本気で困っているらしい。


「それはともかく。現時点で、社長の決裁が必要な書類を、全部待たせているんです」

「今日も午後から会議だ。記者会見にも出なきゃならん。これじゃあハネムーンの意味がないだろう?」

「……ハネムーン、ですか? 帰国後に離婚する予定では?」


宗の声は笑いを含んでいた。わかっていて尋ねる辺りが小憎らしい。

だが次の瞬間、宗は声を潜めた。


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