愛を教えて
万里子は恥ずかしくて顔を伏せるが、卓巳はクリームとジャムのついたスコーンを手で取り、万里子の口元に差し出した。


「さ、召し上がれ」

「もうっ!」


万里子は周囲を見回した。

中庭に並んだ白い円形テーブルはほぼ満員だ。だが、カップルは食事と会話に夢中で、他の客は読書や携帯電話に熱中している。

誰も万里子たちのことなど、気にもしていない。

万里子は意を決して、卓巳の指先にあるスコーンをサクッと一口食べた。

そして、唇についたジャムを指先で拭おうとする。だが、今度はなんと卓巳が身を乗り出してきて、万里子の口元をぺロッと舐めた。

驚き過ぎて万里子は言葉もない。


「ああ……確かに甘い。でもこういう食べ方なら、僕にもいけそうだ」


ハルスの『微笑む騎士』より、晴れやかな笑顔で笑いかける卓巳を見て、幸せな気持ちになる万里子だった。


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