愛を教えて
オーナーズ・ルームのリビングは闇の中に沈んでいる。

卓巳が部屋を出て何時間が経ったのだろう。万里子はあとを追わず、ただ卓巳の帰りを待っていた。



そのとき、静寂を破り、部屋の電話がけたたましい音を上げた。

出るべきかどうか……悩む万里子の目の前で、電話はカチリと音を立て呼び出し音が止まる。留守番電話に切り替わったらしい。

万里子はホッとして、卓巳なら受話器を上げようと手を伸ばした。


『ああ――スティーブン・ライカーだが』


スピーカーから流れる声に、万里子はビクッとして手を止めた。

しばらく間があり、再びライカーは話し始める。


『伝言を聞いた。マリコの意識が戻ったというのは間違いないだろうか? 事実であれば、本当によかった』


ライカーの声は明らかに震えていた。

万里子は、私怨に満ちた卓巳の行動を謝罪するべきかどうか迷う。だが、ライカーと話すことに恐怖と抵抗を感じ、受話器を上げることができない。


『タクミ、今回のことだが……。私は君に感謝している』


(えっ?)


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