愛を教えて
万里子は目を見張り電話を見つめた。


『確かに、権利の濫用はあった。私の指示だ。委託された権利にステイタスをつけるつもりだった。だが、それに金が動いていたことは知らなかった。君が我が社の株を買い取ってくれなければ、きっと一ペンスの価値もなくなっていただろう。一部社員の不品行と無能な経営者のせいで、善良な社員とその家族、数千人の生活を脅かさずに済んでホッとしている』


ライカーの言葉は予想外のものだった。


卓巳がライカーから奪い取ったのは、怒りのためではなかったのだろうか?


電話の前に混乱する万里子がいることも知らず、ライカーは話し続ける。


『君が羨ましかったよ。マリコの笑顔を手に入れて、私は君になりたかった。だが今は、彼女の悲鳴が耳から離れてくれない。離婚が成立すれば、私は母と暮らしたフランスに戻るつもりでいる。私に対する怒りを妻や子、社員たちに向けずにいてくれた君に、心からの感謝を――』


ピー。

室内に電話から流れる電子音が鳴り響いていた。ライカーの声が途切れ、万里子は呆然と立ち尽くす。


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