愛を教えて
「もし仮に、サーを裸にしてピカデリーサーカスに放り出したとしても……私は嬉しくないし、すべてを忘れることもできません。私の望みは、今日のような日々を卓巳さんと過ごしたいだけです」


言いながら、万里子は卓巳の手を握り締める。


「考えていたんだ。あんなに酷いことを言った僕を、どうして君は愛してくれたのか……。ライカーのように気の利いた贈り物さえせず、優しい言葉すらかけなかった。なのに」

「卓巳さん自身に嘘や偽りがなかったから。言葉とか……色々嘘があったとしても。あの“カノン”も“かすみ草”も……いつも私の気持ちを一番に考えてくださったから」


万里子の手が腕から首に回り、「ごめんなさい。お願い、嫌いにならないで」そんな涙声とともに、卓巳に抱きついた。


「それは僕の台詞だ。あの日、君を傷つけて泣かせたことを許してくれ。でも、他の男は許して欲しくない。そんな僕でも、愛してくれるかい?」


卓巳の手は万里子の腰を掴んだ。ふたりはソファの上でピッタリと寄り添う。


「愛してます。どんな卓巳さんも、全部が好き」


ふたりの唇が重なり……その夜遅くまで、リビングは熱い吐息に埋もれていた。


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