愛を教えて
そのひとつが託児システム。滞在中は二十四時間受けられるサービスで、子連れでも夫婦の時間を充分に楽しむことができる。そのため、ホテル利用者は家族連れが多かった。


万里子にとって小さな子供の世話をすることは苦行にも等しい。

だからこそ、生涯の仕事にしようと考えた。

でも……卓巳に起こった奇跡は万里子にも起こるだろうか?

そんなことを考えながら、万里子は託児室の前までやって来た。


部屋はガラス張りで、誰でも中が覗けるようになっている。それでいて、入り口には警備員が配置され、中に入るにはICカードが必要だった。どちらも、預かる子供の安全に配慮してのこと。

部屋の中にはソフィの姿が。

じっと見ていると彼女も気づき、万里子に会釈する。万里子も軽く頭を下げ、するとソフィが手招きした。


『構わないのかしら?』


恐る恐るドアから声をかける万里子に、ソフィは笑って答えた。


『今夜はお預かりするお子様はひとりもいらっしゃらないんです。だから警備の方もいないでしょう? 託児中は厳しいですけれど、それ以外は清掃や見学の方はフリーパスなんですよ』

『預かる子供さんはいないのに、こんな時間までお仕事を?』


もう九時近くである。


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