愛を教えて
卓巳はこれまで、万里子との関係について何かと宗の助言を仰いで来た。今回も無意識のうちに尋ねようとしたらしい。


「いや別に。ただ、どこまでいっても劣等感が付き纏う。私は夫としての務めを果たせているんだろうか」

「それは、私にはなんとも。しかし社長が――夫婦であったことは一度もない、と言われたときの、万里子様の嘆きようは本物でした」

「わかっている……だから、つい」

「万里子様は社長以外には見えてませんよ。それほど心配されなくても」

「違うんだ、そうじゃない。頑張れば頑張るほど空回りしている気がする」

「……社長?」

「いや、いい。大丈夫だ。帰国は予定どおりだ。起こして悪かった」


卓巳は携帯電話を切った。

いつまでも、宗の答えを丸写しでは、情けないにもほどがある。

正しくても間違っていても、より深い愛は教わるものではない。万里子と共に育んで行くべきだ。



卓巳はスーツの上着を手に部屋から出ようとした。

万里子の行動は、支配人から報告を受けている。館内の監視カメラで位置を確認させた。ホテルの外に出ようとしたら、引き止めて、すぐさま卓巳に連絡を寄越すよう言ってある。

ほんの十分前の報告では、託児室でソフィと一緒にいるという。


卓巳がドアを開けたとき、そこに万里子が立っていた。


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