愛を教えて
すぐには状況が飲み込めず、万里子は助けを求めるような面持ちで卓巳を見上げる。 

だが、そんな万里子に静かに語りかけたのは父、隆太郎だった。


「万里子……忍から全部聞いたよ。いや、何も言わなくていい。何も気づいてやれず、お前には苦しい思いをさせた。父さんは、お前が生きていてくれたことに感謝している。もう何も心配しなくていい。父さんのためにも、うちに帰ってきてくれないか?」


万里子は唐突な父の言葉に眩暈を覚える。


(知ってしまったの? どうして?)


クラクラする頭で忍に視線を向けた。


「お嬢様、申し訳ございませんっ! 藤原家で旦那様がお嬢様の酷い噂を聞いてこられ……とても黙ってはおられませんでした」


叫ぶように謝ると、空港の冷たいタイルに忍はいきなり座り込んだ。


隆太郎は驚いた顔で忍の腕を掴み、「やめなさい。君のせいじゃないんだ」と懸命に立たせようとしている。

それを見ながら、万里子も忍に駆け寄った。


「やめて、忍。あなたが謝ることじゃないわ。忍がいなかったら、私は四年前に死んでいたわ。――お腹の子供と一緒に」

「お、おじょうさまぁ」


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