愛を教えて
近くに寄って初めてわかった。

忍の目は真っ赤で、その下には大きな隈がある。そして父も、頬がこけ、年末に比べると痩せたようだ。万里子の思ったとおり、仕事で軽井沢に行くのが遅れた自分を責めたに違いない。


(私のせいで……)


申し訳なさに身の竦む万里子だった。



「ここは……場所が場所ですので、移動されてはいかがでしょうか? すぐに空港横のホテルにお部屋を」


口を挟んだのは宗だ。携帯電話を取り出し、番号を検索している。


「いや、気遣いは結構だ。我々はすぐに失礼させていただく」


隆太郎はそう答えると、卓巳に向き直った。


「卓巳くん、私は君を買い被っていたようだ。君なら、万里子を預けるのにふさわしいと思っていた。だが……忍に聞いたよ。君はすべてを知っていたそうじゃないか。君の身体の事情とやらは知らんが、万里子は私が連れて帰る。離婚届はうちの弁護士に届けさせよう」

「お父様!」


真っ青になる万里子の腕を、隆太郎はガシッと掴んだ。

万里子は父親と夫の顔を交互に見ている。


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