愛を教えて
卓巳は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。

だが、それが万里子の偽らざる本心であった。

「万里子、そんな何ヶ月もかかる訳じゃない。ほんの数日、待っていて欲しいと言ってるんだ」


卓巳の言葉はよくわかった。卓巳なら、きっと必死で万里子を受け入れる準備を整え、すぐにも迎えに来てくれるだろう。

万里子が辛くないように、苦しくないように、大切にしてくれるはずだ。

そう、父のように……。


「卓巳さん、覚えていらっしゃいますか?」

「何をだい?」

「――私、千早万里子は藤原卓巳を夫とし、その健やかなるときも、病めるときも、富めるときも、貧しきときも、死がふたりを別つまで、愛し敬い慰め助け合うことを誓います」


万里子は毅然とした表情で顔を上げ、揺るぎない声で言った。

それは祭壇の前で口にした誓い。

あの日、万里子は迷いながら誓った。卓巳を愛している。でも、愛されてはいないのだ、と。


「卓巳さん、どうか一緒に苦労してくれとおっしゃってください」


でも、今は違う。自分は卓巳に愛されている。その自信が万里子を変えた。


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