愛を教えて
万里子の顔は穏やかな笑みを湛える。彼女の声は湧き出る泉のように透き通っていた。

そしてゆっくりと、万里子は卓巳の隣に立った。


「私は藤原万里子です。卓巳さんの隣が、私の戻る場所なんです。どんなに厳しい場所であっても、逃げたくはありません。お父様……ごめんなさい」


万里子が見上げると、卓巳は目を見開いていた。



二秒後には相好が崩れ、卓巳は万里子の手をしっかりと握る。


「お義父さん、ご覧のとおりお嬢さんに逆らえない情けない男です。でも、万里子が味方なら、世界中を敵に回しても負けません。どうか、共に戦うことをお許しください」


頭を下げるふたりを前にして、隆太郎はボソッと言う。


「まったく、なんでこんな……親に頼らん娘に育ったのか」

「お父様……怒ってますか?」

「いや、本当に私には勿体ない娘だ。――卓巳くん、藤原を出るなら、約束どおり千早に入ってもらうぞ! そのときは我が家で同居だ。婿として散々いびってやるから、覚悟しておきなさい!」


それだけ言うと、隆太郎は何か言いたげな忍を連れて引き上げて行く。

そんな父の背中に、万里子と卓巳はもう一度、深々と頭を下げた。


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