愛を教えて

(2)藤原家の変貌

宗が手配していたのは、卓巳が社用で乗るストレッチリムジンだった。

後部座席は対向四人掛け、しかも運転席とは完全に仕切られている。車中で極秘の会談も可能だ。社長を解任されれば、乗ることもないだろう。

ある種の感慨に耽りながら、卓巳は万里子をエスコートしつつ、リムジンに乗り込む。


しかし――宗の報告は、そんな卓巳の予想を見事に裏切るものだった。


「太一郎が家を出た、だと!?」

「はい」

「まあ。では、次の社長には誰がなられるんですか?」

「いえ、次も何も……」


まず、太一郎が藤原家を出たことが伝えられた。

藤原グループとは一切関係のない一民間企業で、父親の旧姓を名乗り働き始めたという。

大学はろくに通っておらず、尚子が購入した卒論を提出して卒業する予定だった。しかし、太一郎がそれを断り、中途退学の道を選んだ。


「万里子様に伝言があります。よろしいですか?」


宗は万里子ではなく卓巳の顔を覗き込んだ。万里子も同じだ。ふたりから見つめられ、卓巳は不承不承うなずく。


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