愛を教えて
卓巳の言葉に尚子は首を横に振る。
「いいえ、そんなはずがないわ! あの男もまんまと家に入り込んで、財産目当てでなきゃなんだと言うの? まさか偶然なんて笑わせないでちょうだい」
「もちろん、柊は知っていました。養子縁組み前の戸籍を調べれば、実母の名前はすぐにわかりますからね。しかし、ご存じなかったんですか?」
柊造園は高徳に多額の借金があり、養子にすることを承諾させたらしい。その上、出入り禁止をちらつかせ、柊造園の社長に認知までさせていた。
よほど、財産を渡すことが嫌だったらしい。
ところが数十年後、状況が変わった。ひとり息子と孫の卓巳を追い出したものの、娘婿の敦も、跡取りに決めた太一郎も、どう見ても役者が足りない。そんな高徳の前に、もうひとりの息子が現れた。
柊真二郎は礼儀正しく頭もよく、しかも従順だ。見るからに御しやすい男に思えたのだろう。当時、柊の父は高齢で養母も他界していた。
柊は養父から真実を聞き――そして、高徳の申し出を断った。高徳が亡くなる二年前のことだ。
「そのころにはもう、会社の業績も低迷してましたからね。祖父自身の体調もだいぶ悪かったようですし。僕の父を簡単に勘当したのも、太一郎が未成年だからという理由で相続人に指定しなかったのも、もうひとりの息子が存在したからかもしれません」
卓巳はこともなげに言う。
だかその口調が、尚子の怒りを激しく煽った。
「だったらなぜですの? あの庭師は、財産目当てでないと言うならなぜ、この家に居座ってるというのっ!?」
「千代子のため、ですよ。実母に会いたいと願い、そして真実を知った――」
「いいえ、そんなはずがないわ! あの男もまんまと家に入り込んで、財産目当てでなきゃなんだと言うの? まさか偶然なんて笑わせないでちょうだい」
「もちろん、柊は知っていました。養子縁組み前の戸籍を調べれば、実母の名前はすぐにわかりますからね。しかし、ご存じなかったんですか?」
柊造園は高徳に多額の借金があり、養子にすることを承諾させたらしい。その上、出入り禁止をちらつかせ、柊造園の社長に認知までさせていた。
よほど、財産を渡すことが嫌だったらしい。
ところが数十年後、状況が変わった。ひとり息子と孫の卓巳を追い出したものの、娘婿の敦も、跡取りに決めた太一郎も、どう見ても役者が足りない。そんな高徳の前に、もうひとりの息子が現れた。
柊真二郎は礼儀正しく頭もよく、しかも従順だ。見るからに御しやすい男に思えたのだろう。当時、柊の父は高齢で養母も他界していた。
柊は養父から真実を聞き――そして、高徳の申し出を断った。高徳が亡くなる二年前のことだ。
「そのころにはもう、会社の業績も低迷してましたからね。祖父自身の体調もだいぶ悪かったようですし。僕の父を簡単に勘当したのも、太一郎が未成年だからという理由で相続人に指定しなかったのも、もうひとりの息子が存在したからかもしれません」
卓巳はこともなげに言う。
だかその口調が、尚子の怒りを激しく煽った。
「だったらなぜですの? あの庭師は、財産目当てでないと言うならなぜ、この家に居座ってるというのっ!?」
「千代子のため、ですよ。実母に会いたいと願い、そして真実を知った――」