愛を教えて
卓巳が叔父の存在を知ったとき、柊と話した。望むなら公表して、それなりの役職で迎えたい。当然、受け取るべきだった財産も分与したい、と伝える。

だが、柊はその両方を断った。


「同じことを祖母も提案したそうです。すべては夫の責任、千代子を恨まないでやって欲しい、と言って」


皐月は高徳が重用していた顧問弁護士を辞めさせ、沖倉を雇い入れた。そのおかげで、柊の存在を知ったという。

必死に隠す千代子を見て、皐月は自分から言うことはできなかった。


「柊は、藤原高徳は自分とは無縁の人間だと言いました。だが千代子は……何かあったとき力になりたいから、と。彼がここにいる理由はそれだけです」


柊と話したとき、卓巳は彼が羨ましいと思った。性格を形成する要素に、血の繋がりなど関係ないのだ。


「嘘よ! そんな……でたらめに違いないわっ!」


柊の本心を伝えた途端、尚子は騒ぎ始めた。


「法的に権利がなくても……そうよ。皐月様がご存じだからだわ。皐月様が遺言で残してくれるように企んで」


尚子の目は血走っていた。憎しみが憎しみを呼び、最早、誰を憎んでいるのかわからない様子だ。

そのとき、入り口から頼りなげな声が聞こえた。


「お姉様……もう、よしましょう。小さいわたくしより、お姉様のほうがさぞ悔しかったのだと思います。でも、お母様にも責任はあったのよ」


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