愛を教えて
「和子さん! 何を言うのっ」

「わたくしもちゃんと覚えているんです。お父様からいただくお手当ては、ほとんどお母様の酒代と洋服代に……」

「お黙りなさい! お前はいつも勝手なことばかりして。なのに、静香はどこかの御曹司と結婚が決まって、孝司は国立大学ですって? どうしてあたくしばっかり、こんな……」


和子は尚子に歩み寄り、姉の肩に手を添える。


「お姉様には太一郎さんがいらっしゃるじゃないの。取締役会では立派に発言されたと聞きました。外で色々学んで、きっといつか」

「やめてちょうだい!」


尚子は妹の手を振り払い、よろけるように二、三歩離れる。


「あの子はおしまいよ。父親に似て愚図で役立たずで、先代に似てるのは粗野なところだけ。あれほど後押ししてやったのに。太一郎なんか産むんじゃなかったわ!」

「叔母上っ! 言っていいことと悪いことがあります! 太一郎が聞いたら」


卓巳が尚子の暴言をやめさせようとしたとき、和子の背後から声が上がった。


「……悪い、聞いちまった」


太一郎だった。


< 863 / 927 >

この作品をシェア

pagetop