愛を教えて
デニムのシャツとジーンズ、なんの変哲もないスニーカーを履き、立っている。

三週間ぶりに見た太一郎の顔はどこか大人びて、卓巳はその変化に目を見張った。


「なぜ、ここにいるんだ?」

「ばあさんが倒れたって連絡があったんだ」


太一郎の居所を知っているのは宗だけだ。


「お姉様、太一郎さんに謝って。たったひとりの息子さんじゃありませんの」

「親を嵌めるような、愚かな息子を持った覚えはありません! 太一郎のせいで主人もあたくしも、取締役を解任されたんですのよ!」


尚子はキッと太一郎を睨みつけたあと、卓巳に向き直る。


「卓巳さん、あたくしは皐月様にも本当のことを言っただけですから! 発作を起こされたのはお気の毒ですけれど。それも、千代子が大騒ぎしたせいですわ!」


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