愛を教えて
そしてセックスも……。

母は十五歳の少年が異性に抱く憧憬を粉々に砕いた。

彼は母という女を憎み、セックスを嫌悪した。それだけではない。母を女に変える男も、母のセックスに興奮を感じた自分自身も許せなくなり……。


卓巳は強い自制心の持ち主だ。彼はそれを発揮して、強く自分を戒めた。

だが、このときの彼に、愛と欲望の違いなどわかるはずもない。

十五歳の少年は、その人生から“愛”を消し去った。



それから数年が経ち、卓巳を苦しめた母親も亡くなり、大学生になった彼に初恋と呼べる女性ができた。

しかしそれは、卓巳に新たな苦悩をもたらすことになる。


セックスを嫌悪した彼は、自分を厳しく律するあまり……ある時期を境に、肝心な部分がピクリとも反応しなくなっていた。


卓巳が二十歳のとき、初めて訪れた病院で下された診断は――『勃起機能障害』。


それは、かなり重い心因性の性機能障害であった。

医者は卓巳に、


『生殖機能に問題はないものの、性的な事柄に関するすべてを心の深層で拒否している。投薬で一時的な回復は見込めるが、若いのだから時間をかけて根本的に治療したほうがいい』


だが、彼はその治療を受けなかったのである。


< 87 / 927 >

この作品をシェア

pagetop