愛を教えて
まるで駄々をこねる子供のようだ。万里子自身もすぐに恥ずかしくて身の置き所がなくなる。

だが、忍は怒るでもなく。万里子の隣に座ると、娘に語りかけるように、ゆっくりと言って聞かせた。


「ええ、わたくしも母親でございますから、我が子の命に関わると言われたら、それこそ命懸けで反対いたします。お母様もご存命なら反対されましたでしょう。未だ見ぬ孫より、お腹を痛めた我が子を優先するのが母親というものですよ」


それは理に適った言葉だった。

万里子が黙り込んだとき、隆太郎も話し始める。


「母さんが死んだとき、父さんも悔やんだよ。ふたり目が欲しい、男の子がいいなんて言わなければよかった、と。もし、最初にわかっていたら……子供を諦めていただろう」


父は瞳を潤ませながら言葉を続ける。


「二度目のお産だからと安心していたんだ。あのころは万里子の世話もせず、仕事ばかりだった。父さんなりに、家族のためではあったが……。万里子から母親を奪ってしまった、と悔やんでも悔やみ切れなかった」

「私は寂しくなんかなかったわ! お父様がいてくださって、とっても幸せでした。子供を産もうとしたのが間違いだったなんておっしゃらないで!」


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