愛を教えて
卓巳の問いかけに、二度と答えてはくれないのかもしれない。その思いが、逆に卓巳の心を軽くした。


「なんの治療も受けていません。ごく自然に……可能性はゼロに限りなく近いと言われましたが、万里子が僕に奇跡をくれました」


卓巳は皐月の言葉を思い出していた。


――身体の繋がりなど、心の離れたふたりには意味のないものですよ。


挙式直前、迷いを抱える卓巳に、皐月はキッパリと言ってくれたのだ。


「……愛し合う僕らにとって、それは大きな意味がありました。万里子の中に命が芽生えたんです。でも、それは今にも消えそうで……万里子も……連れて行ってしまいそうです」


言葉にした途端、込み上げる涙を抑えることができなくなる。皐月の手に縋り、卓巳は泣いた。


「どうすればいいのか……本当はわからないんだ。万里子を守りたいと思う僕は、父親……失格ですか? 子供が、欲しくない訳がない。でもそれ以上に……万里子を失いたくない!」


無理強いをすれば万里子の心が離れるかもしれない。

彼女の愛を失えば、絶望の度合いは同じだ。子供を望むことで究極の選択を強いられるとは思ってもみなかった。


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