愛を教えて
万里子はお茶目に返事をして、五百円玉を投入する。


「五百円で六回のほうがお得でしょう?」


軽快なメロディが鳴り始め、アームが動き出す。卓巳は今日、初めて経験したクレーンゲーム機に十一回目のチャレンジを開始した。



二月も半ばを過ぎて、明日は二度目の検診が予定されている。

もちろん、卓巳も付き添う予定だ。もし、心拍が確認されなかった場合、その日のうちに処置してもらうことに決まった。

そのときは、この子とは明日でお別れとなる。

たとえ人としての形はなくとも、間違いなくふたりの娘であり息子だった。

元気そうに振る舞っていても、検診の日が近づくにつれ食の細くなる万里子に、卓巳は提案した。


「遊園地かどこかに遊びに行かないか? その……家族三人で」

卓巳の言葉に万里子の瞳は輝いた。


「じゃあ観覧車のあるところがいいわ。子供連れで乗るのが夢だったの」


そしてふたりが訪れたのが、お台場にあるアミューズメント施設に併設された巨大観覧車だった。地上一一五メートル、日本最大級の大きさだという。

観覧車からは夜景を見ることにして、暗くなるまでふたりはレジャー施設で遊ぶことにしたのだ。


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