愛を教えて
ゲーム機のコーナーを奥に進み、お化け屋敷に入りそうになる万里子を、卓巳はさり気なく止める。

入場料金が書かれた立て看板の隅に、『入場をお断りいたします』の注意書きが。その中に『妊娠中の方』という項目があった。

どこか恥ずかしそうな顔で万里子は微笑み、違うコーナーに向かう。スポーツゲームのコーナーでは、万里子にせがまれ卓巳が挑戦するが……。

野球、サッカー、テニス、バスケットと、球技が全滅であることを証明しただけだった。


「言っておくが、僕はスポーツが苦手な訳じゃないぞ! 球技が苦手なだけだ」

「でも、男の子だったらキャッチボールはしなくていいの? それとも最近はサッカーかしら?」

「いいんだよ、娘なんだから。ピアノとかバレエとか」

「卓巳さん、クラシックも苦手なんじゃ」


思えば、卓巳には親に何かをしてもらった記憶がほとんどない。

黙り込んだ卓巳に万里子が慌てた様子で声をかけた。


「えっと、卓巳さんの息子だったらきっと頭がよくて勉強が大好きよ! 宿題は見てあげてね」

「ああ、もちろんだ! 娘には僕が勉強を教えよう」

「もうっ! 頑固なんだから」

「お互い様だ」


万里子はクスクス笑いながら卓巳の腕に抱きついた。


< 905 / 927 >

この作品をシェア

pagetop