愛を教えて
そんな妻の手をしっかりと握り締めながら……。

子供は娘に決まっている、万里子が失ったすべてを取り戻してやるのが卓巳の願いだった。



「卓巳さん! ほら見て、とっても可愛いわ!」


ガラスケースに張り付き、万里子は中を覗き込んでいる。

卓巳が横に立つと、その中にはハート型のクッションに縫い付けられたアザラシもどきのぬいぐるみが押し込まれていた。それはとても陳列とは言い難い、ぎゅうぎゅう詰めだ。


「気に入ったのかい? だったら好きなだけ買えばいい」


万里子が物をねだるのは滅多にない。貴金属品店やブランドショップなどはいつも素通りだ。甘い物と花は喜ぶので、卓巳がお土産に選ぶのはそういったものばかりだった。


「いやだ、卓巳さん。これって自分で取らなきゃダメなのよ」

「盗る?」


万里子は百円硬貨を取り出し、実演して見せた。

アームを動かし、先端で挟んで、隅の穴に落とす。というゲームらしいことはわかった。


「なんだ。そんなことなら簡単だ」


そう言って始めたのだが……。


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