愛を教えて
卓巳が無意識のうちに、万里子の期待に応えた茶色いアザラシのご利益か――。

はたまた、忍が裸足でお百度参りをしてくれ、万里子の父が日に二回も亡き妻のお墓まで行き祈ってくれたおかげだろうか。

さらには、皐月の『わたくしを起こしてくれたのは小さな男の子だったわ』という不思議なお告げまであり……。

万里子は二度目の検診で、黒い胎嚢《たいのう》の中に白い点滅が確認されたのだった。


『ちゃんと成長しているようですね。現段階で薬の影響はなんとも言えませんが……』

担当医の口調から『懸念は残るが喜ばしい』と言った印象を万里子は受け取る。

通常の週数から比べれば、二週ほど成長が遅れていた。だが、このまま順当に発育するようであれば、排卵そのものが遅れた可能性が高い。そうなれば、投与された薬が胎児に影響を与える可能性はほぼゼロだと言う。


それを聞き、卓巳は俄然奮起した。

邸に産科のドクターを雇い入れ、超音波機器まで購入しようとしたのだ。

それを万里子が必死に止めた。

一日中ドクターに付き添われ、毎日検査されたのでは逆にプレッシャーを感じるから、と。

担当医からも、あまり気にせずゆったりとした気持ちで過ごすのが一番と言われ、卓巳もどうにか納得してくれた。


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