愛を教えて
北海道からとんぼ返りをしてきた卓巳は、出産から二時間が過ぎたころ、ようやく我が子と対面した。

三四七一グラム。丸々とした男の子はなんの問題も見当たらず、健康そのものだ。

そして万里子も……。


「陣痛の間隔とか、長引くようなら落ちついている間に食事をしたほうがいいとか、色々勉強したのよ。でも、全部必要なかったわ」


ペロッと舌を出し、顔をくしゃくしゃにして笑った。


そして、ふたりの顔を見た瞬間、卓巳の中で堰き止めていた何かが外れた。

たくさんの思いが一気に溢れ出し、洪水のように卓巳を襲う。

彼にとって血の繋がりは金の繋がりだった。血縁とは、破格の財産を相続することだけを意味していた。人工的な手段で子供を持つことは可能だ、と言われたとき、人生の虚しさに心は一層凍りついた。

万里子に出会わなければ……。

おそらく、皐月に何を言われても妻は迎えなかっただろう。


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