愛を教えて
“愛”はある。


この世に生まれ出てわずか数時間、この無力な赤ん坊でなかった人間などひとりもいない。

卓巳が今ここに生きているという事実。それがある限り、きっと卓巳にも注がれた愛があったはずだ。

愛する妻と息子の姿は、卓巳の命の中に眠る“愛のありか”を教えてくれた。


その思いを万里子に伝えたい。なのに、言葉が出てこなかった。

卓巳はベッドサイドに跪くなり、声もなく泣き始める。そんな夫の首に腕を回し、万里子は力一杯抱きついた。

万里子の頬にも涙が伝う。

言葉はいらない。

愛しさと喜びに包まれ、この日……愛し合うふたりは“夫婦”から“家族”になった。


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