愛を教えて
エピローグ 未来
万里子は空を見上げていた。

青い空の所々に、ワンポイントのように白い雲が浮かんでいる。そして、万里子の目の前にあるのは、巨大な観覧車。直径百メートル、ゴンドラの数は六十四台。

額に手を翳し、万里子の見つめるブルーのゴンドラは、ちょうど地面から九〇度の地点を超えようとしていた。


腰近くまであった万里子の長い髪は、今は肩の少し下くらいで切り揃えられている。今日は左右に分け、三つ編みにして……まるで昭和初期の女学生のような可憐さだ。

女学生と違うのは、お腹が膨らんでいる点だろうか。

安定期に入り、腹帯で支えなければ少し辛いという程度の大きさだった。


あまり上を見ていると眩暈がするので、万里子は手を下ろし正面を向いた。周囲にはゴンドラに乗ろうと大勢の人が並んでいる。

春休み最後に日曜日、辺りは家族連れで一杯だった。


そのとき、万里子が手にしているベビーカーから、ぬいぐるみが転げ落ちる。

万里子はゆっくりと腰を落として拾う。

それはだいぶ色あせた“茶色いアザラシ”だった。


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