愛を教えて
あの子の命は男たちが犯した罪の証。だが、その罪をあの子に償わせたのは万里子なのだ。

思いは堂々巡りで、やがて万里子の中に自責の念を積もらせていく。


いつか愛する人と出会い、結婚して、たったひとりの男性にすべてを捧げる。そうして生まれてくるはずの命だったのに。


卓巳に聞かれたとおり、子供は女の子だった。


十二週を過ぎれば役所に死産届を出さなければならない。戸籍には載らなくても、せめて名前くらい、と『愛実《まなみ》』と名づけ葬った。


我が子を殺した。子供とともに死ぬべきだったのかもしれない。だが、父を残して死ぬことはできない。


万里子は嘘をつき続けた責任を取らなければならない。


すべてを受け入れたとき、万里子は恋も結婚も諦めた。



それが……。


卓巳との出会いは万里子の心に小さな灯りを点した。

今、この瞬間、万里子は嫌悪と恐怖しか感じなかった男性に身体を預けていた。

暗闇は、あの夜の恐怖を思い出す。
ひとりでいたら、きっとパニックに陥っていただろう。

万里子は卓巳がそばにいてくれたことに、心から感謝した。


< 94 / 927 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop