愛を教えて
非常灯だけならともかく、明るいライトの下でこの体勢は、互いに恥ずかしいものがある。

今のふたりは、恋という卵から孵ったばかりの、ヨチヨチ歩きのひよこ同然だった。



「万里子、大丈夫か? 怪我はないか? 身体が冷えたようだ、もう一度シャワーに」

「あの、さっきから万里子って」


これまでは『君』と呼びかけるか、人前では『万里子さん』と呼んでいた。


「ああ、申し訳ない。つい……これからは注意しよう」

「いえ、構いません。だって、私はあなたの妻になるんですもの」


おずおずと口を開きながら、それでも万里子はきっぱりと言い切った。

そして慎重に言葉を選ぶ。


「私は……男性に失望していました。でも、藤原さんは違う。あなたは暗闇で支えていてくださったにも関わらず、決して私の身体に触れようとされませんでした。『穢れた身体だから』と言われるのは辛いですが……それでも約束を守ってくださるあなたを、私は尊敬します」


万里子は言葉を区切り、卓巳の胸に手を添えたまま、本心を伝えた。


「ドアに鍵をかけてごめんなさい。本当のことを言えば……約束を守ってくださるのか不安でした。でも、これからは信じます。私はあなたのお役に立ちたいと思っています」


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