愛を教えて
(7)朝帰り ―万里子―
朝六時――万里子が立っているのは自宅前だった。
後方にはBMWが停まっていて、運転席から卓巳が降りてくる。
「大丈夫か?」
「あ、はい。……たぶん」
「お父上には僕から話すから、心配はいらない」
「……はい」
卓巳の前髪が、朝のひんやりとした風に靡いている。十月も後半になると、朝晩はかなり涼しい。あと半月もすれば、今度は冷え込んでくるだろう。
だが、今の万里子にはそれどころではなかった。
卓巳を伴い、万里子が玄関のドアを開けた瞬間――そこに父が立っていた。
「た、ただいま帰りました……あの、遅くなって……申し訳ありません」
万里子の声はしだいに小さくなる。
父は頭ごなしに怒鳴ったり、いきなり卓巳に殴りかかったりしなかった。
だが、父の顔は青褪め、頬は引きつっている。
玄関は、恐ろしいほどの沈黙に包まれた。
着替えて来ます、と万里子は独り言のように言い、思わず、逃げだしてしまったのである。
後方にはBMWが停まっていて、運転席から卓巳が降りてくる。
「大丈夫か?」
「あ、はい。……たぶん」
「お父上には僕から話すから、心配はいらない」
「……はい」
卓巳の前髪が、朝のひんやりとした風に靡いている。十月も後半になると、朝晩はかなり涼しい。あと半月もすれば、今度は冷え込んでくるだろう。
だが、今の万里子にはそれどころではなかった。
卓巳を伴い、万里子が玄関のドアを開けた瞬間――そこに父が立っていた。
「た、ただいま帰りました……あの、遅くなって……申し訳ありません」
万里子の声はしだいに小さくなる。
父は頭ごなしに怒鳴ったり、いきなり卓巳に殴りかかったりしなかった。
だが、父の顔は青褪め、頬は引きつっている。
玄関は、恐ろしいほどの沈黙に包まれた。
着替えて来ます、と万里子は独り言のように言い、思わず、逃げだしてしまったのである。