愛を教えて
千早邸は豪邸とは言い難いが、建売住宅とも違う、しっかりとした造りの洋風建築であった。

万里子が生まれてすぐに建てられたので、建築年数は二十年程度。二階には万里子の部屋と主寝室以外に、洋室が三つもある。それは両親が、たくさんの子供を希望して、設計したものだった。



「万里子お嬢様、どうして電話の一本でもかけてくださらなかったのですか? 旦那様はずっと起きてらしたんですよ。朝になって連絡がなければ、警察に捜索願いを出そうとおっしゃって。わたくしも心配で心配で……」


忍が万里子の後を追いかけてきて、真剣な表情で詰め寄った。

目の下に隈がある。どうやら忍も眠れなかったらしい。万里子は心から申し訳なく思った。


「ごめんなさい。本当にごめんなさい。でも、ふじ……卓巳さんとずっと一緒だったの。それで電話もできなくて」

「お、お嬢様……それは、あの、もしや」

「お願い、忍。あのことは決して他言しないで。一生のお願いよ!」


万里子は忍の手を取って頼み込んだ。

忍はポカンと口を開けたまま、呆然としている。

それでもハッと我に返り、


「そ、それはもう、わたくしの口からは何を申し上げるつもりもございません。ですが……藤原社長は何も?」

「は、初めてでないことはお気づきだけど。こ、高校時代の過ちで一度だけと話したわ。手術のことは……ううん、私の身体のことは絶対に言わないで! 卓巳さんに知られたくないの。お願いだから」

「ええ、もちろんです。あのことは、わたくしが墓まで持って参ります。ですが、ご結婚となりますと……」


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